徒然法律ブログ

時の問題や出来事を法律的視点で綴る弁護士ブログ

争続???

2009年10月12日 | 斉藤睦男

 弁護士で境界紛争を得手にしている人は珍しく、多くの弁護士はできれば事件の受任を回避したいと思っています。境界紛争の当事者には良く言えば粘り強い人が多く、いくら断ってもなかなか帰ってくれません。「私は境界訴訟で勝ったことがない。」とは、ある弁護士が受任を断るときの殺し文句です。
 なぜ、弁護士が不得手とするのか、理由を考えてみます。

当事者の性格

 「粘り強い」というよりも粘着質で細かいことにこだわるタイプが比較的多いようで、付き合いづらい依頼者類型に当てはまること。

労多くして益少ない(バブル経済の絶頂期の頃ならともかく)

 わずか幅数センチで面積にして1センチにも満たない争いなのに、大概の場合前の世代から数十年にわたって係争が続いており、その怨念の固まりをほどいて整理するのに大変手間取ること。

専門的な知識が必要になる

 「筆界」と「所有権界」との区別、公図や法第17条地図の見方などのノウハウが必要になること。

 ざっとこんなところでしょうか。
 私も境界訴訟の受任は避けたいと思っている1人ですが、それでもこれまで3件受任しています。1件目は、第1審で敗訴した側の当事者からの依頼事件で、農村地域での筆界紛争でした。「昔はあの松の木が境界の目印だった。」「いやそうではない。」といった紛争で、昔の古いシワシワの公図やら検証調書やら何やらで既に第1審で訴訟記録が膨大になっていて、控訴審でも2年以上の審理期間がかかり、結果は第2審も敗訴でした。上記の3つのことをどれもつくづく実感し、もうやりたくないと思いました。

 2件目は、それから10年ほど経ってからですが、まだ「殺し文句」を知らなかった頃でとうとう粘り切られて第1審から引き受けてしまいました。分譲住宅地の所有権界紛争で、相手方が法面の工事をした際に杭を15センチメートルこちら側に動かした、というのが当方の依頼者の主張でした。第1審で敗訴したのですが、控訴審になって、依頼者の執念が稔り、依頼者が前に境界杭があったと思われる土地を掘り返したらその残骸が出てきて(現地で検証した)、大逆転の勝訴となりました。しかし、判決後の「戦後処理」の際に、当方の依頼者がさらに相手方に難しい要求を持ち出すものですから、とうとう私は付き合いきれなくなり、報酬は放棄して辞任してしまいました。やっぱり引き受けるんじゃあなかった。。。

 3件目は、それから6~7年経過してからのことで、別の民事事件を受任中の依頼者からの頼みなので、顔で笑って心で泣いて引き受けました。宅地間の所有権界の紛争でした。当方には根拠資料がバッチリ揃っており負けるはずがなかったところ、相手方の相談を受けた土地家屋調査士が正しい見解を相手方に示してくれたことがダメ押しとなり、相手方も納得し訴訟上の和解で解決しました。が、雨樋が落ちたのは、当方の依頼者の土地の木が去年倒れたせいだとか言われ依頼者が修理代金を払わされました。境界紛争には何かしら「落ち」があるようです。
 現在はどうかと言いますと、土地家屋調査士会に境界紛争解決支援センターができ、法務局には筆界特定制度もでき、さらに認定土地家屋調査士にはADR代理権が付与されますので、境界問題の相談を受けてもかなり安心できます。「こういうところ(ADRか法務局)がこの問題の専門の解決機関だからそこに行ってごらんなさい。」とアドバイスすると、粘り強い相談者も『良いことを教わった。』という顔をして帰っていただけます。「私は境界訴訟に勝ったことはない。」と言わなくとも、「境界紛争解決支援センターがありますよ。」と言えばそれが「殺し文句」になっています。

★本稿は日本土地家屋調査士会連合会の機関誌(平成19年5月号)に寄稿したものに加筆したものです。