徒然法律ブログ

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交通事故の物損「車」は「物」

2010年8月25日 | 阿部弘樹

 当事務所は、ある損害保険会社と顧問関係にあります。そこで、交通事故損害賠償の示談交渉を依頼されることがよくあります。保険会社経由、すなわち支払義務者側からの依頼が多いのですが、支払請求者側からの依頼ももちろん受けています。交通事故損害賠償に関し、そのうちの物損の損害賠償について、よく揉めるケースをご紹介します。

「乗れる状態にしてもらえればいいんだよー」

 「物」に関する賠償は、その「物」(交通事故の場合は「車」がほとんどです。)の事故当時の価値が損害賠償額の上限となります(正確には、事故当時の価値+買い換えた場合の諸費用相当分)。
 古い車に乗っていて車両時価額が20万円だったとしましょう。事故に遭ってしまいました。追突事故で相手方が100%悪いケースだったとします。修理代金を見積もると50万円でした。こんな場合、損害賠償額は20万円が上限となります。「20万円もらったって同じものは買えないよ。乗れる状態にしてもらえればいいんだよー。」とよく言われます。でも、「こうなってるんです。」といわざるをえないのです。

「格落分を請求したい。」

事故車というだけで、車を売ったとした場合の価値は下がるようです。その価値下落分は「格落ち」と一般にいわれます。その格落分を見積もって請求されることがよくあります。ですが、裁判例では、車は使ってなんぼであり、元の使用できる状況に戻せばそれで足り、いわゆる格落料などは払う必要がない、とするのが一般的です。例外的に、ベンツ等の高級車や走行距離が少ない新車の場合に、修理代金の2~3割程度を「評価損」として認定することがありますが、あくまでも例外です。
 「事故車と分かったら、誰も買ってくれないし、買い叩かれるでしょう。」と言われても、「こうなってるんです。」といわざるをえないのです。

「慰謝料を払って欲しい。」

 事故に遭いましたが、幸い怪我はありませんでした。ですが、車が壊れてしまい、修理の手配をしたり、保険会社と何かと連絡をしたりと迷惑を被りました。車の修理中は代車に乗っていましたが、慣れない車だし何かと不自由しました。なので、慰謝料を請求したい。これも良く言われます。
 しかしながら、「物損の場合は慰謝料はお支払いできません。」というしかありません。「物」が壊されたことの損害は、その物が元通りになればそれで損害は回復されたものとするのが、一貫した裁判例の立場です。いかに愛着があって大事にしていた車だったとしても、慰謝料が認められることはないといってよいでしょう。

「物損には自賠責保険は使えません。」

 車を保有する者は、必ず自賠責保険に加入しなければなりません。通常は車を買ったり、車検をとったりする際に、業者の方で手続を代行して加入してくれているはずです。自賠責保険は、自動車損害賠償保障法という法律に基づく強制保険ですが、この自賠責保険は、いわゆる人身損害だけに適用され、物損の場合は保険給付はなされません。
 ですので、追突事故に遭い、車が損傷した。加害者が自賠責保険には入っているが、任意保険には入っていなかったという場合には揉める可能性が高くなります。車という危険なものを運転するのに、任意保険に入っていないということは、相当モラルの低い人か任意保険の保険料すら払えない人である可能性が高いのです。
 修理代金が20万円かかったとして、その20万円を請求しても「払えません。」といわれ続けたり、最悪「逃げる。」ということもあります。裁判をして勝訴判決を得ても、加害者が何らの財産もなければ結局1銭もとれません。訴訟費用分だけかえって損をしてしまうこともありえます。
 ですので、このような事態にならないようにするために、「車両保険」には必ず入っておくことをお勧めします。車両保険に入っていれば、修理代金(免責額がある場合はその金額を除く部分)は保険会社が払ってくれるので、先に述べたような面倒なことに巻き込まれなくてすみます。

 結局、裁判例では「物」の損害は「物」が元のように使えるようになれば損害の回復と考えており、そして「車」も「物」であることから先に述べたような結論となるわけです。
 車の場合には、いつもピカピカにして入念に手入れしているような人もいますよね。この場合にはその車の所有者にとって、その車は単なる「物」を超えた愛着の対象となっているのでしょうが、このような特別事情は裁判では考慮に入れられないのです。
 でも、このようなことを話してもなかなか事故当事者は理解してくれません。感情的な側面もありますしね。物損の示談交渉は、弁護士にとっても結構困難を伴うことが多いものです。