徒然法律ブログ

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最近のADR事情

2011年1月16日 | 斉藤睦男

 平成20年11月に次の2つのADR関係の催し物に仙台弁護士会ADRセンター長として参加し、ADRについて話す機会がありました。そのときの話をもとに最近のADR事情をお知らせします。

① 11月8日 東北大学法科大学院主催ミニ・シンポジウム「民事紛争とADR~よりよいADRの条件」(パネリストとして参加)
② 11月14日 仙台弁護士会ADRセンター主催第2回ADR仲裁人フォーラム「ADRで活かされる弁護士のノウハウ」(コーディネーターとして参加)
ADRとは、Alternative(もう1つの) Dispute(論争・紛争)Resolution(解決)の略語で、日本語では「裁判外紛争解決機関」と訳されており、「調停」や「和解あっせん」の機関をイメージしていただければ良いと思います。ADRは、司法制度改革のなかで、裁判に代わる魅力的な紛争解決の選択肢として位置づけられて、その拡充がうたわれ、ADR促進法が制定されました。

東北地方のADRの現状

 いま東北地方のADRは2つの要素によってエンパワーされています。
 第1は、ADR法が平成19年4月に施行されたことです。これによって、裁判所に頼らなくとも自分たちで紛争解決の場を作れるんだ、という機運が高まりました。弁護士会は宮城・山形・福島の3県で、土地家屋調査士会は宮城・岩手の2県で既にADRを立ち上げています。また、従来から存在している交通事故紛争処理センターや住宅紛争審査会などが民間型ADRの先駆けとして見直されるとともに、各県の司法書士会などでも新たな立ち上げを検討しているようです。
 ところで、ADR法では認証制度が導入されました。民間型ADRのうち法務大臣の認証が得られたものは、時効中断効や離婚調停などの代替が認められます。認証というのはホテルや旅館のマークのような制度で(その反面、法務大臣の監督下に入ることになる)す。ただし、弁護士会では、弁護士会の自治との兼ね合いがあって、認証を受けることに積極的な単位会と消極的な単位会があります。ともかくも、東北地方でこの認証を受けたADRはまだ出現していません。
 ADR法は民間型ADRを対象とするものですが、実は、行政型ADRもエンパワーされています。労働委員会、建設工事紛争審査会、公害審査会などは、従来は行政サービスの延長にあるものと見られてきましたが、ADRという「裁判に代わる魅力的な紛争解決の選択肢の1つ」なのだという自己認識が生れました。
 そして、民事調停と家事調停です。調停は日本のADRのジャイアントであり絶対的な存在ですが、「司法型ADR」などと呼ばれることで自己の相対化・対象化ができ、調停の存在意義についても、ともすれば訴訟の前段階において訴訟と同じ結果を安上がりに実現する制度と思われがちだったのが、調停にはもっと積極的な独自の意義と理論があるのではないか、という問題意識が生れました。
 エンパワーの第2の要素は、レビン小林久子九州大学法科大学院教授です。レビン教授は、アメリカで開発された現代メディエーション理論の研究と紹介を行い、調停人の養成トレーニングを自ら行っていますが、宮城県土地家屋調査士会などでは何度もレビン教授を招いて研修を行っています。また、昨年、東北調停協会がレビンさんを大会に招き「調停委員へのメッセージ」と題する講演会を行いました。仙台調停協会から東京や福岡でレビンさんが行っている調停人の養成講座に参加した調停委員も何人かいます。
レビンさんの調停理論は、その基本発想において調停人をエンパワーさせるものが間違いなくあります。

仙台弁護士会ADRセンターの現状

平成19年度(19.4~20.3)の実績の概況は次のとおりです(カッコ内は平成18年度の実績)。
  申立件数 101件(107件)
  応諾率   71.1%(73.3%)
  多い事件類型  ①契約トラブル15件 ②近隣紛争10件 ③医療過誤10件 ④不法行為9件 ⑤男女関係8件 ⑥雇用関係6件 ⑥交通事故6件 ⑥不動産紛争6件
申立て時の弁護士関与率  申立人側 37.6%(46.5%)
  相手方側 28.7%(31.7%)
  解決事件の平均期日     2.8回(2.3回)
  解決事件の平均審理期間   37.6日(56.6日)
  応諾事件の解決率      57.1%(66.0%)
  解決事件の紛争の平均価額  1,565,000円(36,981,000円→これは負債額約55億円の深谷病院事件を解決したことの影響によるもの)
第2回ADR仲裁人フォーラムでは、2名の弁護士の事例報告をもとに、弁護士が仲裁人・調停人をつとめることの意義がどこにあるのかを議論しました。仲裁人である弁護士にとって、調停(和解あっせん)とは2人の紛争当事者を同時に自分の依頼者にして、2人とも満足のいく解決方法を考えていくもの(WIN=WIN RESOLUTION)であり、そこでは、「依頼者と共感する」、「確かな法律的知見と実務経験をもとに解決への見通しをしめす」といった、ふだんから弁護士が悩み鍛えられていることが反映されているのではないか、ということが確認されました。

人に優しいADR

 民事紛争の法的解決手段の典型は判決です。違憲判断のように判決によって社会の流れが変わるような画期的なケースもありますが、通常の私人対私人の民事紛争での判決は、あくまでも「この事件はこのように解決しなさい」という解決基準を高みからしめすものであり、それに従うかどうかは任意です。もちろん従わなければ強制執行ができますが、それをする方もされる方もますます感情が悪化し恨みを残すことになります。
 これに対して、いま「人に優しいADR」ということが国際学会などで言われ始めています。これからの調停を考えるうえでキーワードになる言葉だと思います。「人に厳しいADR」というものはありませんから、ADRは本質的に人に優しいもの、という理解ができると思います。調停を始めとするADRは、訴訟のように法規範の側から人や事件を見るのではなく、人と事件に寄り添ってその事件に相応しい解決規範を作り出すものだからです。
「人に優しいADR」をよくあらわしているレビンさんの言葉を紹介して本稿を閉じることにします(信山社「ブルックリンの調停者」より)。
「人間が人間であり続ける限り私たちの心には誤解が生じ、その結果、社会から争い事はなくならないし、他人とのトラブルも避けられません。それならば、それを嫌って避けようとするのではなく、むしろ争い事も人生の大切な一部として素直に受け入れ、今度はそれを少なくするために努力をすれば良いのではないか、という(のが現代調停の)考え方です。そうすることによって、トラブルや迷い事も、私たちに人生の豊かさや面白さを教えてくれるありがたい材料となるのです。」

(本稿は「調停仙台ニュース」第70号の原稿をもとにしました。)