徒然法律ブログ

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今年の1冊

2012年1月6日 | 斉藤睦男

 当事務所の忘年会は毎年御用納めの日に行っています。そして、これもここ数年の恒例行事なのですが、忘年会のときに、私から、事務所のスタッフの一人ひとりに「今年の1冊」をプレゼントするイベントがあります。「今年の」といっても新刊本ではなくて文庫本で、次の条件を兼ね備えた本です。

 ◆ 小説(文庫本)
 ◆ 今年又は前年に読んだもの/以前に単行本の新刊で読んだ本が最近文庫になったもの
 ◆ その人が面白いと思って読んでくれそうな本

というのも、私は年間60~70冊は本を読んでいて、その多くは文庫本の小説です。出張の電車の中や土曜・日曜などに暇を見つけては読んでいます。読んでみてハズレの本も結構ありますが、アタリの本に出会って『この本は××さんに合うな』と思ったものがあるとそれを記憶の中にリストアップしておいて年末に渡すのです。もらう方は迷惑かもしれませんが、まあ、そこは文庫本1冊ですし。。。
 さて、今年は司法修習生が2名、スタッフのフィアンセも参加したため全部で10冊以上になりました。以下にご紹介します。?~?は前置きで、?がそれです。

1. 童話とファンタジーから

 今年の読書の幕開けは童話とファンタジーから(いずれも文庫本ではない)。わすれていた 心の かさぶた の中にある柔らな部分が震えだします。

★マイケル・スコット「錬金術師~ニコラ・フランメル」(橋本恵・訳)理論社「魔術師~ニコロ・マキャベリ」
★安東みきえ「頭の打ちどころが悪かった熊の話」理論社・日向理恵子「雨ふる本屋」童心社
何と言っても最大のお薦めは、
★上橋菜穂子「獣の奏者」(1巻と2巻は以前「貸本」で紹介。今年、講談社文庫に)2巻で完結したはずなのに、今年何と3巻と4巻が出た(講談社)! 一気に読了!! 童話や少年少女向けの物語作家の大人向けの小説にも眼が行くようになり、森絵都、梨木香歩、あさのあつこなどにも触手をのばした。その中で群を抜いて素晴らしかったのは、
★佐藤多佳子「一瞬の風になれ」1・2・3部(講談社文庫)
珍しくも高校生の陸上ものだが、風や空や土が主人公と同じ気持ちで感じられる。

2. 打ちのめされるような凄い本

 物語以でも、思わず「凄い」と言いたくなる本に何冊か出あった。必ずしも一般受けしないと思うのでプレゼント本にはしませんでしたが、本屋で立ち読みをしてみて面白そうだったら是非読んでみてください。

① 内堀弘「ボン書店の幻」ちくま文庫 夭折したある詩人と彼がプロデュースした本づくりの影絵を追いかけていくうちに1冊の物語になった。小説よりも小説らしい奇跡の瞬間が待っています。
② 矢作俊彦「悲劇週間」文春文庫 詩人で訳者の堀口大學は外交官の息子で父の任地だったメキシコにいき反革命の嵐の中で(意外だがここまでは本当のこと)恋をしていた。最初の1文がポールニザンを思い出す。
③ 佐藤優「獄中記」岩波文庫 佐藤優の文庫本を昨年来何冊か読み、いずれも面白かったがこの「獄中記」が「打ちのめされるような凄い本」(米原万里)です。小賢しい秀才たちの中から抜きん出ている真正の知識人です。

3. 娯楽の殿堂

 今年の「娯楽の殿堂」は誉田哲也。「ジウ」シリーズ(中公文庫)は3冊あっという間に読んだ。姫川玲子シリーズ(光文社文庫)も。ホラーがかっているが「アクセス」(新潮文庫)もお薦め。
  娯楽本というより時代小説の大河ドラマだが、江戸時代に題材をとり反権力の骨太な人物を描ききる一連の飯嶋和一の作品(小学館文庫)も面白かった。時間があるときにはどうぞ。
今年の最後になって、いよいよ伊坂幸太郎に手が伸びた。(「チルドレン」講談社文庫)。ひょっとする来年の「娯楽の殿堂」になるかも知れない。

4. スタッフへのプレゼント本

 さてさて、今年の物語のベストワンはプレゼント本の中の1冊。どれかな?

□ 森絵都「風に舞いあがるビニールシート」文春文庫        (for AY)
 懸命に人や人生と向き合っていくうちに、主人公が大切にしていた種火のような何かに気づいていく短編連作。心の中の柔らかな部分に輪郭が与えられる。本作で直木賞受賞。でも、二宮金次郎のストラップはやっぱり流行らないと思うなあ。最初の贈り本の宮部みゆきが気に入っていたら、今年文庫になった「孤宿の人」上・下(新潮文庫)がお薦め。

□ 森絵都「いつかパラソルの下で」角川文庫             (for KT)
 父の影を背負って今がある20歳代の3人の兄・姉・妹が、父が突然死んでもっと濃くなる父の影から脱出する物語。終わりの方で佐渡の海に向かって心がストンと落ちる場面がある。そこでの25歳の主人公(姉)が感じた言葉が良い。年代的には少し前の少女が主人公の「永遠の出口」(集英社)も良い。

□ 森絵都「カラフル」文春文庫                  (for MY)
 森絵都は思春期の葛藤を生き生きと描く優れた物語を数々紡ぎ出しているが、その中でも「カラフル」は一番の傑作だと思う。抜群のユーモアとエスプリ。最後の方での天使との会話で出てくる「長めのホームステイ」という喩えは眼から鱗の至言で、中学生のときに読んでいればもっとよかったのに、と思う。

□ 浅倉卓弥「四日間の奇跡」宝島社文庫              (for K)
 「天は自ら助くる者を助く」の言葉どおりの<真理子さん>がステキだ。終盤の入口で一瞬レレレッ…となるが、その後はわかっていても泣きながら一気に読んでしまう。登場人物に「悪人」が1人もいないのに、これだけドラマチックな物語も珍しい。第1回「このミス」大賞受賞作。

□ 吉田修一「悪人」上・下 新潮文庫               (for HA)
 「犯罪者」の心の陰影が見事に描かれ、人間の闇に眠る本性のようなものが圧倒的な流れとなって終末に向かう。犯罪小説だから描けたのかも知れない。結末は「悪人」ではない、よね? 破滅型の感覚を持っている作家で、都会的なセンスで描かれた「パレード」(幻冬舎文庫)も良い。

□ R・スコット・ライス「石油消滅」ハヤカワ文庫          (for I)
 石油の枯渇ではなくテロでもなく、起こりえる話。一種のパニック・サスペンスで、題名は直裁すぎてボツだが、ストーリーの展開と人間像がしっかりしていて物語として面白く読める。石川さんの科学者の眼に果たして耐えられるか?

□ ベルンハルト・シュリンク「朗読者」新潮文庫           (for KO)
 15歳の少年と36歳の女性との愛人関係から始まり、別離後この女性の過去(戦争犯罪)が法廷で暴かれる場面で再開する。その後のこの男性と哲学者の父親との会話、男性が尋ねていった戦争犯罪の被害者との会話の中に「修復的司法」のヒントが隠されている。ただ、どうしても疑問が1つ残る。その疑問とは?

□ 乙川優三「さざなみ情話」新潮文庫               (for SO)
 さびしく・弱い人を描ききれる時代小説作家による恋愛長編(最初は朝日文庫)。宮澤賢治のよだかの星をなぜか思い出す。太田さんに合う推理小説 伊岡瞬「いつか、虹の向こうへ」(角川文庫)にしようかと迷ったが…今年は「情話」の方を。

□ 奥田英朗「空中ブランコ」 文春文庫               (for T)
 ひろむ法律事務所で一大マイ・ブームとなった連続短編小説。小説の面白さを堪能できる。伊良部一郎医師の言動は戯画化(過激化)されているが、患者にピタリと寄り添うことで本人に自己対象化を促し「病」を克服していく。本作で直木賞を受賞。伊良部シリーズの開始作である「イン・ザ・プール」(文春文庫)もお薦め。

□ 畠中恵「ゆめつげ」角川文庫                 (for YA)
 「しゃばけ」(若旦那と妖怪が活躍する)シリーズの作者が、夢告(ゆめつげ)を得意とする兄の弓月としっかりものの弟の信行という神官キャラクターを創出しての上質なミステリーを紡いだ。「日本ファンタジー大賞」受賞作で、この賞からは面白い作品がよく出る。

□ 仁木英之「僕僕先生」新潮文庫                 (for ST)
 美少女姿の不老不死の仙人と弟子の王弁青年が2人で道教を駆使して摩訶不思議な冒険旅行に出かける。旅の途中、王弁が僕僕先生の過去をしつこく本人に尋ねたときの僕僕先生の答えが良い。今以上の何がある? これも「日本ファンタジー大賞」受賞作。

□ 梨木香歩「家守綺譚」新潮文庫                 (for K)
 古風で端正な寓話。床の間の掛け軸の中から亡親友がボートを漕いで現れ出る最初の不思議さに慣れていくと、だんだん自分が明治初期の鎌倉辺りの家で、サルスベリなどの植物やタロー(犬)と暮らしている感じがしてくるから不思議だ。狸にマツタケをもらう話と最後に冥界から戻るところの話も心に残る。

□ 小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」文藝春秋社            (for me)
 単行本ですが、いま読んでいます。少年のチェスの物語です。

□ 井上ひさし「ムサシ」集英社                   (for me)
 これも単行本。戯曲です。巌流島の決闘後に実は佐々木小次郎が生き返り、武蔵との「復習の連鎖」に陥るが。。。