徒然法律ブログ

時の問題や出来事を法律的視点で綴る弁護士ブログ

朝日のようにさわやかに~朝のトイレの1冊~

2014年12月30日 | 斉藤睦男

◆はじめに

 本の話は、これまで自分のブログやADR委員会のMLなどでときどきしてきました。たぶん毎週2冊のペースで読んでいるので、本の話題には事欠かないのですが、今日はとっておきの神聖な場所での秘密の読書の話をします。 トイレ(当然、洋式トイレです。)の中で読むものの定番といえば、たぶん新聞だと思いますが(えっ、何も読まない? それに朝はトイレに行かない? 哀れな活字中毒者の成れの果ての独白と思って、しばし憐れんでおつきあいください。)、新聞は大きすぎてたたむのがめんどうだったり、水に濡れやすかったりで、トイレ向きてはありません。何といっても、手に持って楽な文庫本か新書サイズが最適です。 次に、本の中身ですが、何せ起きがけで頭の血のめぐりの悪いとき(朝に限らないんじゃないかって? おぃこら!)なので、思考能力がいる本(量子論など理系の本に多い)はダメで、引き込まれてついつい先が読みたくなるおもしろい長編作(推理小説など)でもダメです。せいぜい2分くらいで区切りがつくものが良い。 そうなると、朝のトイレにふさわしい本はそれなりに限定されてきます。だいたい想像がつきそうですね。ちなみに、トイレは窓があって朝の光が少しさしこむと最適です。それでは、そろそろ準備ができましたか?(いや、ベン意をもよおさなくっていいんです)。

◆ショート・ショート 
□ドナルド・J・ソボル「2分間ミステリー」ハヤカワ文庫

 ショート・ショートなら星新一が超有名ですが、ここでのお奨めは、ドナルド・J・ソボル「2分間ミステリー」ハヤカワ文庫。
謎解き用の話が71篇入っています(毎朝読むと2か月と少しで読了)。1話完結で(文庫本で2ページ分)、話の最後に「どうしてハレジアン博士は彼が犯人だとわかったのでしょう?」などといったQがあり、そこでウンウンと考えるのです。
1話を読んで答えを出すまでが2分間です。頭の血の巡りが悪くても、そこそこ正解が得られます。答えがはずれても(少しくやしい)、2分間のうちに灰色の脳細胞の働くスピードがいつのまにか速くなっていて、さあやるぞ、という頭脳状態でトイレから出ることができます。 この本が頭脳に効いた方は、読み終わってもご安心ください。「もっと2分間ミステリー」「まだまだ2分間ミステリー」の続編(いずれもハヤカワ文庫)が出ています。商売上手ですよね。

◆エッセイ集
□荒川洋治「忘れられる過去」朝日文庫

 「きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ。そう心のどこかで思いつづけ、…」(河出文庫「ユスナールの靴」の冒頭部分)。須賀敦子のエッセイはいつもほれぼれします。けど、トイレの中でほれぼれしていてもはじまりません。ここでは小つぶのエッセイが連載されている本が良い。荒川洋治「忘れられる過去」朝日文庫がお薦めです。
むかしFM東京の何かの番組でパーソナリティだったかゲストを毎回つとめていて、すごく感じの良い人だなぁ、と思って聞いていました。その人が詩人だということを後で知り、ときどき本屋で荒川さんの本をみかけると手に取るようになりました(必ず買うわけではない)。そうして手に入れた1冊で講談社エッセイ賞を受賞したのがこの作品です。全部で74篇が。1篇が2~3ページ。平成24年の一時期、朝のトイレ本になっていました。
読み終わったときの感想文があります(なにを読んだかすぐ忘れるので「読書日記」のようなものをつけています)。
<装丁が良い。過去の異次元に向かう風景と淡くパステル調の色彩が良い。川上弘美の解説が良い、「もっと、ていねいに、生きよう」。中身も良い。この著者には大切にしているものが人の何倍もある。その一つ一つを普段着の語り口で紹介してくれる、それがこの本だ。>
今この感想を読むと、少し気恥ずかしくなってしまうくらいこの本に入れ込んじゃってますね。そうそう、最後の方は、毎朝1話ずつ読む(1話しか読まない)という自分のルールを遵守しきれなくなって、一気にたっぷりと読んじゃいました(もちろんトイレの中でではありません)。
朝、トイレを出るときに、「もっと、ていねいに、生きよう」と思わせてくれる本って、ステキだと思いませんか?(べつに、寝るときでもいいか?)。

◆アンソロジー
□小川洋子「心と響き合う読書案内」PHP新書

 アンソロジーにもさまざまあるなかで、本のアンソロジーのなかからのお奨めは、小川洋子「心と響き合う読書案内」PHP新書。
小川洋子さんの小説へは「博士の愛した数式」(新潮文庫)から入りました。映画も見て深津絵里がちょっといいなぁと思ったりし、そのうち「ミーナの行進」(中公文庫)そして「猫を抱いて象と泳ぐ」(文春文庫)に行きつき、圧倒されました。『猫と象』は何人もの人たち、なぜか全員女性でしたが、全部で5人の人に薦めました。弁護士にもいます。面白かった?「人質の朗読会」(中公文庫)もいいよ、などといってしまうのは野暮です。本は、ふと、本のほうから声をかけられたように思ったとき読みだせばいいんです。 で、その小川さんが、やはりFM放送の番組に1年間出演して毎週好きな本を紹介し、それをもとにできたのが「心と響き合う読書案内」です。1年というときの流れにそって、春・夏・秋・冬にジャンル分けして(本にそんなのないけど)全部で52冊を紹介しています。読書案内や書評にはとかく気取ったものが多いんですが、この本はもともとラジオ番組のトークが下敷きになっているだけあって読みやすいです。<まえがき>に「いい本を読むと、周囲の人についお喋りしたくなります。まるでその本を読んだこと自体が自らの手柄であるかのように」と小川さんが書いています。この気持ちって本好きに共通しますよね。
この読書案内で紹介されている本を次々に読みました。その中で私の一番の「手がら」になったの本が(迷惑かけた周囲の人、ごめん)、梨木香歩「家守奇譚」とベルンハルト・シュリンク「朗読者」(どちらも新潮文庫)、カズオ・イシグロ「日の名残り」(ハヤカワepi文庫)です。
で、ここで脇道にそれますが、梨木香歩の本はその後ずいぶん読んでます。新刊がでると(文庫になるまで待たずに)必ず買ってしまうのは、前は村上春樹と宮部みゆきだったのですが、「家守奇譚」に出会って依頼、梨木香歩もそれに加わりました。「朗読者」は、アウシュビッツの被害者と加害者の人生が「ぼく」を介して最後に交差します。ブリキの缶が象徴するものは何か、最後どうして彼女は「ぼく」の元に戻らなかったのか、ADRの究極の課題の領域に行きあたります。「日の名残り」はイギリスの老執事の話。その次に「わたしを話さないで」(ハヤカワepi文庫)を読んだときにはしばらく本がこわくて読めなくなるという経験をしました。カズオ・イシグロは、同時代に生きる村上春樹も意識しているとてつもないイギリスの作家です。
さて、最後にもう一度朝のトイレの時間に話を戻すと、「心と響き合う読書案内」は1話がやや長いです。どこか途中で区切って翌朝に回すのがお奨めです(一体なにを奨めているのやら…)。

◆詩集など
□谷川俊太郎編「祝魂歌」朝日文庫
□後白河法皇編纂・川村湊=訳「梁塵秘抄」光文社古典新訳文庫

 区切りの良さでいうと「詩」がいいんじゃないかって思われるかもしれませんね。なにせ、たいがいは短いし。僕はもともと詩が好きな方なので、もちろん朝のトイレで試してみました。けれど、詩は、一篇の詩といえどもそれを2分間で味わうには、わからなさすぎたり、短かすぎたり、あちこち思いがめぐって心の深い所に入っていってしまったりで、朝のトイレ向きではありませんでした。
それなら句集(俳句や和歌)はどうか。山頭火の句集で絵やの書のついた本をみつけて一時期朝のトイレ本にし、これは上出来でした。ただし、句そのものより絵や書の方に見とれていたような気がしますが。ビジュアル系で朝のトイレに向くかもしれないのは、朽木ゆり子「フェルメール全点踏破の旅」集英社新書ビジュアル版です。ずっと前に(トイレではなく)読んで、それ以来ヨーロッパやアメリカに行くときはフェルメールの絵がある美術館を目標にしています。
旅行ついでにいうと、国内はもちろん、外国に旅行に行くときはスーツケースやバックに文庫本を4,5冊入れて(いつも妻に叱られます。ガイドブックももちろん別に持ちます)飛行機の中やホテルで読みます。ある年にヨーロッパに行ったとき、そうだ旅に出るのだから旅の本だ、と思って「山頭火句集」(ちくま文庫)を忍ばせて持っていきました。ところが、です。『
> 分け入っても分け入っても青い山
> ほろほろ酔うて木の葉ふる
とかの句が、ヨーロッパの旅には不思議と合わない。全く合わない。ドライとウェット、ワインと日本酒、といっても良いかも知れない。風土と文化、そこで培われた感受性がとても隔たっているためなのかもしれない、とそのとき思ったものです。 閑話休題。詩の本は合わないと最初に書きましたが、谷川俊太郎編「祝魂歌」朝日文庫は例外でした。谷川俊太郎さんが、(あとがきによると)死をタマシイの新しい旅立ちととらえて編んだ30の詩のアンソロジーです。だって、最初の詩なんか 「今日は死ぬのにもってこいの日だ」
で始まるんだもの(プエブロ族=アメリカ先住民族1つに伝わる古老のうた)。震災(3.11)のちょうど1年後に文庫が出て読んだせいかもしれません。さぁ、今日は死ぬのにもってこいの日だ、とトイレのドアを開けて出るってのもなかなか乙なものです。トイレの中で禊(みそぎ)を果たしたみたいで、とてもすがすがしい気持ちで一日を始められます。
蛇足になりますが、格言集のような本も朝のトイレ本に向くと思いますが、あいにく格言集みたいなのは(たとえば「一日一善」なんて言われても)肌に合わなくて使用していません。そういうのが肌に合う方は試してみてください。あっ、勢古浩爾「ぼくが真実を口にすると 吉本隆明88語」(ちくま文庫)と世阿弥の「風姿花伝」(原文は読むのが難しいので、現代の人による紹介本がお奨め)はいいです。
これは蛇足でなくって、本当に面白くて朝のトイレ本にもなるのが後白河法皇編纂・川村湊=訳「梁塵秘抄」光文社古典新訳文庫です。僕は読書日記にこういう感想を残しています。
 <「遊びをせんとや生まれけむ…」で著名な今様のアンソロジーで、思い切った現代語訳を冒頭に持ってきている。現代語訳は原歌からほとんとど独立したものも、原歌に忠実なものもいろいろだが、解説と合わせ原歌の雰囲気が伝わる。トイレの一冊。毎朝、そこはかとない無常観を味わいながら読んだ。

◆一日一書
□石川九楊「選り抜き 一日一書」(新潮文庫)

 極め付きの朝のトイレ本は、石川九楊「選り抜き 一日一書」(新潮文庫)です。
おや、読書案内の本があるぞ、と思って本屋で手に取ったら、なんと書道の書の本でした。著者というか編者は、東アジア圏の古今東西の漢字に、とてつもなく幅の広い・深い知識のある人で(なぜか京都大学の法学部卒)、その石川さんが京都新聞に頼まれて毎日の朝刊に1日に1つの書(漢字)を簡単な紹介をまじえて載せました。それが好評で、さらに2年間連載が続き、毎日毎日別の新しい漢字を掲載しました。その3年分(365字×3)の書のストックの中から、その1日のための選りすぐりの1書を日付を付して掲載しています。むかし書道というのはお手本どおりに書くのが良い書とされていましたが、全くそんなことはないと気づかされます。なんと魅力的な書が多く、魅力的な書道家が多いのかと想像してしまいます(ホラ、字は体を表すっていいますよね、その人に興味がわきます。)。その中の1字を事務所のHPの弁護士の自己紹介で使っています。 この文庫本は、妻の英語のカナダ人の先生に彼が離日するときにあげてしまい、その後また買ったけど今度は自分の実家にあげてしまいました。仕方なく原書(京都新聞の1年目掲載版の単行本)を購入したら、これがカラー版でまた良くって、いまも朝のトイレで現役で活躍中です。
じっと本を見つめていると、「ほ~ら、いつまでも、どこで何やってんのよ。早くしないと(仕事に)遅れるわよ。」と、今朝もまた妻の声が、遠くトイレの外の方から聞こえてきました。そろそろ終わりにしないっと。